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【小説】すなどけい ケース④
「18911」

「18912」

「18913」

僕の仕事は 数を数える事だ

以前までは 普通の 大学生だったが、今ではこんな仕事をしている

上から 下へ

ポタリポタリと落ちる雫の数を数えるのが仕事

だいたい 一つの雫が落ちるのに5~6秒。

それを延々と19000近くまで数えた。

延べ時間にすると30時間を超える。

これからも まだまだ数え続けるだろう。





落ちた雫は 一旦 小さな空間へ溜まり、そこからつづく ビニールのチューブを伝って流れた。

そして最後には 僕の右腕から 体内へと 運ばれる。

その紫色の液体は 体の中の何かを破壊している気がした。





僕の体の中には 得体の知れない生物が潜んでいる

その生物は 僕の体をゆっくりと 食い歩きながら 大きく育っていった

体を開いてひっぱったって

がっしりと しがみついて離れないその生き物は 僕の命を確実に削っていった


奇跡がもし 起こるなら

この生物を すっかり ひっぺがして 体の外に捨てて欲しい

大学の単位だって まだまだ 足りて無いんだから・・・





目をつぶると 雫の音が聞こえる

実際は聞こえていない雫の音


もう 見てなくたって数は数えられた



そこへ 彼女が病室に入ってきた

「寝てる?」

「起きてるよ。」

彼女は ベッドの側に椅子を置いて 座った

「調子は?」

「良い・・・かな?」

彼女はだまって 小さく何度かうなずいた

彼女とはもう3年付き合っている

大学1年の夏からだ

もちろん、彼女にも 僕の病気の事は全て伝えてあるし、僕の余命の事も伝えてある

病気の事を告げた時、泣いてくれた事に 妙に ほっとしたのを覚えている。

僕の最後には 何人の人が泣いてくれるのだろう


「体の中のやつが 僕の体力を吸って大きくなってるのが、なんとなくわかるよ。」

「そうなの?」

「うん。子供産むってこんなかんじなのかな?」

「そんなわけ。」

彼女は 少しだけ笑った

「冬虫花草って知ってる?」

「きのこでしょ?」

少しだけ考えて 彼女が答えた



「そう。きのこがさ、虫の幼虫に寄生して成長するんだ。あれと同じ気分。」

「そんな事ばっかり考えてるのね。」

「寄生された幼虫って、どの段階で死んじゃうんだろうなぁ・・・」


大きな違いは 薬膳料理に使ってもらえるか もらえないかだ


「今は 毎日生きる事考えて。余命なんて あくまで 医者の予想よ。余命半年って言われた人
が、2年、3年生きてる事だってあるんだから。」

「でも 僕はあと3ヶ月だよ?」

「じゃあ、2年は大丈夫よ。」

「2年か。」

彼女は 素直に笑って僕の頭を 2回 ポンポンやった

その後、何か言いたそうにしていたが 何も言わずに また笑った


「また。明日 くるね。」

彼女は 何冊かの本を置いて 帰って行った

太宰治だの、宮沢賢治だの そういった類の本だ

銀河鉄道の夜でも 読めば 少しは 覚悟がつくだろうか・・・




その夜僕は 自分の腹が開かれて その中のものを 数人の太った 女性達が パクパク食べている

夢を見た

もっと 食べて、すっかり平らげてくれれば 僕の病気も治るのにな

そんな事を考えながら 食べられる様子をじっと見てる夢だった





次の日から

彼女はもう来なかった






それは




仕方のないことだ・・・・











病気の進行は 思った以上に 早く、医者が予想した 3ヶ月というのも 逆に怪しいものだった

僕の体からは 紫色の点滴は はずされ、もう数を数える必要も無くなった

大丈夫  正直 数え疲れてたところだ


あとは 痛みを抑える 治療のみに切り替えられた

奇跡は 起きない

そう思った

モルヒネで朦朧とする意識の中

ふと ベッドの脇を見ると

彼女が立っていた

いや 立っていた気がする

そして 彼女は 泣いていた気がする

僕はすぐに 気を失って眠りに落ちた





いよいよ最後が近かった

24時間のうち、数時間しか 意識を正常に保てない

部屋には 何人もの人がいた

母は泣いていた

父は しかめっつらだった

弟は僕を見ていなかった



泣きながら 母が教えてくれた


彼女はあの日、病院を出た後すぐに 事故に遭った

そして2日後に亡くなったそうだ


たしか、そんな事を母は言っていたと思う


でも 僕には はっきりと 母の後ろで 悲しい顔をして僕を見ている彼女が見えていた


それが 幻想なのか なんなのか

僕には もうどうでもよかった

ただ 最後に

愛する人たちに囲まれて 死ねる事が

とても気持ちよかった



最後になって 僕はようやく気づいた

病気で死ぬ事って 咲いた花が枯れるような 

ただ 当たり前の事なんだと




誰かが 僕の頭を ポンポンと叩いてくれた



最後に数えた 雫は 自分の涙で

それが 僕の最後の仕事だった








(或る癌患者の母親の手記を元に)
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やべえ
小説というより、ただの手記だし。
こんなん書いてると マジで自分が 病気になった錯覚に陥るので 病は気からといいますわけで、そろそろ止めとこうかなとおもいますTT

あー
これよく考える。
死ぬ時期とか、ホントわかんないよねえきっと。
  • たこ さん |
  • 2009/01/09 (21:22) |
  • Edit |
  • 返信
あえてのKYだけど
冒頭で何故かドモホルンリンクル
想像してしまったorz ゴメンナサイ。

死ぬ時の心境とか考えるもんだよね。
んで凹む。
  • 和尚 さん |
  • 2009/01/09 (21:50) |
  • Edit |
  • 返信
>re
>たこさん
トウチュウカソウの幼虫が死ぬときも きっと 癌とおなじようなくるしみなんだろうなとかおもうよね
実になるぶん あっちがましだけど

>和尚さん
スポイトで 1滴1滴みてるイメージかw
死ぬ事が こわくならない薬をそろそろ作ってもらわねばこまるな・・
>おしょさん
ドモホルンリンクル実は私も思ったwww
  • たこ さん |
  • 2009/01/10 (18:08) |
  • Edit |
  • 返信
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