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【短編】銀河鉄道⑥

 

 


どうして


どうして俺は

今頃になって 死んでるんだろう

どうして俺は

もっと幸せな内に死ねなかったんだろう


この

小さな空間には

あの頃の楽しくて幸せな瞬間が

閉じ込められている気がする。

 

このはしっこのしみだって


これは 娘がジュースをこぼした跡だ


天井のこの傷は


ピンクの小さい
自転車を乗せた時にぶつかった跡だ

 

跡だ・・・

すべてが跡だ・・。

 

俺が死んで残る跡は何だ。


どんな足跡を残せた。

 


足跡なんて。


残す必要もない。


それは残った側の問題だ。

 

 

妻と娘が事故で亡くなったのはもう11年も前の話だ。

当時はまだ新車だったこの車でよく遠くまででかけたもんだ。


その日も。


この車で二人を駅まで迎えにいく途中だった。

自慢のこの車でお迎えにあがるのが

俺としてもうれしかったし、きっと二人もうれしかったんだと思う。


雨が降っていた。

だから 事故は起きやすかったんだと思う。

起こしたのは俺の車じゃなくて。

他の見ず知らずの人の車だ。


はじめは

簡単な打撲程度の傷かと思った。


二人とも あんなに綺麗に寝てたから。


医者は後になってから言った


「外見が綺麗な事故ほど、内臓は傷付いている事は多いんです。」


でも、おかげで最後は二人を撫でてやれたね。


 

いつものように。

 

それから10年


俺は、「何かのために」貯めていた貯金を

ゆっくり


口の中で飴を溶かすように使いながら

何もせず生きてきた。





何の為に貯めてたんだっけ・・・・




 

ようやくその金も尽き


やれやれと座り込んだのがこの場所だ。

そもそも生きてる意味など感じていなかった。


惰性で食べ


惰性で寝てきただけだ。

 

車はすっかりロートルになり

この森のど真ん中で

ぐったりと動かなくなった

だから もうここが終点だと悟った。

たいして楽しくもない長いパズルが

やっと終わった気分だ。

 


悟ってから

10日余りが過ぎ

いよいよ体も動かなくなった。

俺は大きく息を吸い込んで

運転席から車内を見まわした




これが最後に見る景色だと思って

見まわした

 


薄暗い月明かりに照らされた車内は

助手席や

後部座席

その後ろの収納スペースに至るまで


すべてが

 

すべてが思い出だった。


音やにおいまで、


ありありと思い出され不意に涙が溢れた




しばらく






だいぶ長い間それが続いた

 

嗚咽とともに倒れこんだ後部座席の


隙間に


墨のようにカラカラになった 小さなどんぐりが挟まっていた。



 

俺はそのどんぐりを にぎりしめて もっと泣いた

 

 

生きる事ってどういうことだ

 

死ぬことってどういう事だ

 



死ぬ事が先にあるから

 

 

生きる事に意味がある

 

 

 

 

そう思った瞬間

 


俺は 静かに 車のキーをまわした

 

車は しばらく 唸ってはいたが

 

エンジンを重々しく動かし始めた

 


「もう少しだけ 走ってみようか・・・・」


 

鈍い音を響かせながら


満天の星空の中進む車

 

生き死にの狭間で走り続ける
 

これが銀河鉄道と言われれば


それが銀河鉄道なんだろう。

 



(銀河鉄道①)

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やだなもう
泣いた。
  • たこ さん |
  • 2012/01/27 (23:50) |
  • Edit |
  • 返信
>たこさん
子を持つ親なら尚更かもしれない・・

最近風呂に入りつつ色々想像して、それだけで
泣きそうになります。
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