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【小説】すなどけい ケース①
「わたしゃ長生きするよ。絶対に。日本一ね。長生きする」

おとつい死んだ春さんの口癖だった。
81才だった。癌だった。

しかし、癌ってあんなに簡単にポックリと死ねるものなんだな。
もっと苦しいってきいてたのに・・・・・・

僕は少しカンシンしながら春さんの遺影を見ていた。
さて・・・これからどうしようか。僕も春さんみたいになれるだろうか・・・。


僕も癌なんだ。
まだ26才だというのに、僕の胃は50才台のそれに近く、もうぼろぼろなんだそうだ。
最近の若者に増えてきている、ジャンクフード症候群の末路ってやつだね。

少しの刺激、可能性で細胞は変異してしまうんだって。

それで、さて・・・どうしよう。

またあの病院にいってもいいが・・・・しかし、くそう。
あのクソ医者め。ハッキリ”あと半年”だなんて宣告しやがって。
僕はそんなに強い人間じゃないんだぞ。


でも、他にすることもないのでとりあえずまた病院にいった。


「あぁ、岡田さん。どうも。その後どうですか?」
「はぁ。さして苦しいわけでもないのですが・・」
「もうじきね。きますよ。キューッとね。痛くなる」
「はぁ。」
「岡田さん。人生は色々です。短いからって悪いわけじゃない。」
「あの、先生。」
「はい?」
「僕、ほんとにもう死んじゃうんですか?」
「・・・そりゃね。最善はつくしますよ。当然ね。医者ですから。必死で努力します。当然です。」
「はぁ。」
「でもね岡田さん。医学も万能ではないんでね。わかるでしょ?」
「じゃ、もう今の医学では僕は死ぬしかないって事ですか?」
「・・・・・・」
「先生?」
「岡田さん。あなたそんなに生きたいですか?」
「・・・え、ええ。それは。できる事なら。」
「生きてどうするんです?」
「そ、そんな事。仮にもあなたは医者でしょう?」
「ああ。わかりました。そうですね。すみません。」


医者は少し考え込んで、コゴエで話だした


「あのですね。岡田さん。お金はね。実際今の世の中、なんでもできるんです。」
「・・・・・・・」
「1つだけ、方法があるんですよ。治す方法が・」
「え?本当ですか?」
「でもね、これは本当にまだ普及していないテスト段階の治療でね。」
「それは一体・・・」
「治癒率は99パーセントです。あとも再発の可能性もありません。」
「お願いします。それ、僕にできないんですか?」
「かなり厳しいですよ?金銭的にも、体力的にも」
「教えてください。どんな方法なんですか?」




医者は僕の胃のレントゲンの腫瘍を睨みながら話はじめた。



「宇宙へいくんです。」
「宇宙?」
「宇宙には特別な効果あるの、ご存じですか?」
「いいえ・・・」

「宇宙空間っていうのは、特別な世界なんです。地球とはなんの繋がりもない、マッタクの異世界なんですよ。」

「シュワルツコフ効果というのがありましてね。ええ。宇宙特有の現象なんですが。これが人体にある種の変異をもたらすんですよ。」

なんだか難しい話だが、聞くしかないか。

「で、この効果と、ある薬を組み合わせる事により、癌は完全にきえさるんです。」
「それ、お願いします。」
「お金。かかりますよ?なにせ宇宙に行くんだから。」
「ええ。」
「この前ね、アメリカの大統領が宇宙にいったでしょ?彼も癌だったんですよ」




僕の砂時計は あきらかに 下の方の量が多かった





そんなわけで僕は宇宙にいくことになった。
お金は集めた。あらゆる手段で。ここでは書けないような事もやった。
もっとも、そっちの方が多いくらいだった。
億単位のお金だ。僕は金持ちだ。


1週間程の訓練をうけ、あっというまに打ち上げ当日。

でも、宇宙に行けるなんて考えてもみなかったなぁ。僕の多くの夢の1つが今かなったんだ。

「5、4、3、2、1、」

「発射」

轟音と激震と共に僕のロケットは打ちあがった。
10分と少しもすればもう宇宙だった。
初めて直で地球を見た。きれいだった。今までみた何よりも。
たとえようのないほど綺麗だった。自然と涙があふれてきた。
本当に綺麗だった。
やがて例の治療が始まった。
治療といっても体の数箇所に点滴を刺すだけ。1時間ほど。
あとは体が勝手に治してくれるらしい。
はぁ。これで僕はまた健康な体になったわけだ。
その後、僕はオプションで3日間の宇宙生活をお願いしていたため、十分宇宙を満喫することができた。
そして、大気圏を越え地球へ。

再び降りたった地球は今までとは全く別のものに見えた。
病気からの解放感。夢がかなった事。幸せだった。
地球の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
気持ちよかった。その時だった。胃が急に痛みだした。





「岡田さん・・・・私は悲しいです。」
「え?」
レントゲンを見ると腫瘍はさらに大きくなっていた。



直らなかったんだ。



「正直、これは本当に最悪のケースですね。」
「だ、だって、先生・・・」
「岡田さんは99%の方に入れなかった。本当に残念です。」










ほんのちょっと前まで、僕は 今立っているはるか上から 見下ろしていた











病院からの帰り道、僕は高層ビルの屋上に登った。
夜の街。綺麗だった。まるであの時みた地球みたいだった。

もう一度
大気圏に飛び込めば
今度は 変わるかもしれない

今度は きっと99%の側に入って 長生きできるはずだ
それでだめなら また 飛び込もう
何度でも
何度でも



こうして 岡田の砂時計は ビルから地面にたたき付けられて割れて散らばった



次の日の新聞にはアメリカ大統領が癌で死んだ記事と同時に、癌に対する画期的な新薬の完成が一面を飾った。


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無題
なんだか渡辺浩弐さんの小説読んでた気分。
次回を楽しみにしてます。
  • 和尚 さん |
  • 2008/11/24 (01:17) |
  • Edit |
  • 返信
>re
>和尚さん
渡辺さんは 大好きです。
影響もうけてます。
ミクシーで おもしろ選手権っぽい
事してたので 書いたら 今使い道あるのか疑問な サイン入りテレフォンカードを送ってくれました。
すばらしい。
紛失しましたTT
無題
新作嬉しい。
お金集めてっていうくだりが一番辛く感じたのは、自分が大人になっちゃったからなんだろうなぁ。
  • たこ さん |
  • 2008/12/05 (09:14) |
  • Edit |
  • 返信
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