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【小説】レタスの店
たとえば

繁華街の どこかの 小さな路地で

身寄りも 金もなく

灰色の薄汚い コートを 羽織って

雨に打たれながら 死んでいく 人がいたとして

その人にも 死ぬまでに 一度は行ってみたい場所や

食べてみたい食べ物

理想や目標



聞いてみたい モーツァルトの生コンサート


そんなものが あっただろう

魔笛は滑稽だが 面白い







でも別れとは、そういった事は関係なしに





無機質に スッパリと 訪れる。






赤茶けたレンガで 足元を埋め尽くされた

名もない 小さな 並木通りに

その店先にサニーレタスが 丁寧に植えられた カフェが一つ






名前は無かった。


だが サニーレタスという名前を聞くだけで

温かく まぶしい 太陽が その 小道を照らしている 情景が目にうかぶ






だから カフェには名前がいらないのかもしれない


このカフェには なぜか

これから 何らかの別れが訪れる人々が 一時を過ごす


それはたぶん

この サニーレタスという存在と

この まぶしいレンガ並木が 

せめてもの 自分の安らぎの場所に近いからかもしれない



一人の 男性が その店を訪れた

その日も 店はやさしい太陽の光に照らされて

あちこち ところどころ

不規則に ピカピカと 光っていた


やや年老いた カフェの店主が

ゆっくりと 店の外に出てきては

ひとつ 伸びをして 太陽を仰ぎ

サニーレタスの葉を 4,5枚 取り上げて

また 店の中に入っていた




店主は 客を見て 葉を 取り上げる




その客は

国どうしの いさかいに 巻き込まれたと 笑った



これから 戦争に行くのだという





店主は ひとつ ほんの小さな ため息をついて


サニーレタスを 使った料理を テーブルにおいては



「戦う人同士には 関係の無い事なのにね」と


やさしく その男の 頭に手を置いた


男は 少しだけ 泣いて その 料理を 食べ終えると


店に 敬礼をして 立ち去った









しばらくして来店した 次の客は 女性客だ


婚約者が 戦いに出る事になったそうだ


店主は サニーレタスは出さずに



白のワインを 一杯と


少し酸味の強い チーズを 出した






女はそれを ゆっくり ゆっくりと 流し込んで

少しだけ 泣いて 店主に お辞儀をして 立ち去った


立ち去った後 店主は

また 店の外に出ては太陽を仰ぎ

店先に 植えてある サニーレタスに ジョウロで 水をやり

しばらく それを 見つめては また 店の中に入った






この店は


別れを ただ 十分に味わう店なのだ


無機質な別れを この店は 料理に変えてくれる

だから、この店に 何度も足を運ぶ客は 稀だ


別れの数程客がいて

その数だけ レタスの葉が必要だ





サニーレタスという名前を聞くだけで

温かく まぶしい 太陽が その 小道を照らしている 情景が目にうかぶ

テーブルのくすんだ 木のにおいは その店の 洒落た 味だった。


今日も 店主は さして 忙しそうに するわけでもなく

レタスに 水をやっている


冒頭に述べた 路地で 死んでいく男は

この店に 来れずに 不幸な事だ


でも こういった不幸なことは 世の中 当たり前に起きる

だからこそ 人々は

少しでも 何か 抗おうと

カフェに訪れるが如く

必至に生きていくのだろう












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サニーレタスって響きがあたたかい言葉ね
男が死ぬ前に、何らかの偶然が重なってこの店に来ていたら、
男のその後は変わったのかな…
はたして。

抗って生きていれば、一瞬でも幸せになれる場所…きっとある。と信じる。

  • あ_くみ さん |
  • 2010/07/12 (23:42) |
  • Edit |
  • 返信
>re
>あくみさん
それでも結局死ぬんだと思います。
だけど なにか満足して死ぬんだろうな。

いっぱいある 悔いを ここで消化して。

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