忍者ブログ

   
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

【小説】銀河鉄道④(もうじきおわり)
「ほう・・・。それで?。君は何をしにここにきたんだね」

老人は あの時と寸分違わぬトーンで話した。


僕は 無意識に がっくりとうなだれて話した

「正直なところ。わかりません。」



老人は 暫く無言だったが わずかに 微笑んだ


「まぁ。飲みなさい。」

5年前と同じように 老人は 暖かいコップを僕の右手にあててくれた。


「別に・・・。もうどうしたいってわけでも無いんですが・・・。」

僕は 酔いも手伝って いつもより饒舌に話した


「僕が特別そうなのか、皆がそうなのか、わからないけど、
生きていくって事が、つまらないっていうか。
いや、死にたいとかそういうわけじゃないんです。
楽しい瞬間はもちろんある。
野球の応援や、おいしい食べ物。喜んだり、笑ったり。
でも、そういうのが全て結局は自分自身の事に思えなくて
ふと、我に返ったとき、自分の目の前には何かあるのか・・・。
考えるたびに、歩いてきた道を何枚も鏡で照らしているような。
そんな無機質な道が続いてるっていうか。
なんかよくわかんないけどごめんなさい。」



「はっはっは。」

老人は笑った

何にわらったのか分からないが、なんとなく嬉しそうに笑っていた


「それで?君は 乗りにきたのかい?」

老人は僕の話に答えや助言をしてくれるわけでもなく、
また唐突に僕にそう言った。


突然現実を突きつけられたかのようだった

何のためにここにきたのか。

無意識でも有意識でも。

ここにきた理由はきっと 銀河鉄道だったのだろう。
それはまるで自殺願望じゃないか。


その時 不意に 木扉が開いた


「おじいさんすみません。遅れまして!」



入ってきたのは 20台前半の 元気な若者だった


「おお。木下君。間に合ったな。」

「ええ。なんとか!」

木下と呼ばれる若者は恥ずかしそうに照れ笑いをうかべていた。

老人は 相変わらず重そうな体を ゆっくりと動かして

カウンターの側にある 古めかしい戸棚を空けた

「大丈夫かね。明日だが?」

「ええ!そのために 色々片付けてきましたから。」

木下は目を輝かせながら老人に言った

老人は戸棚から 相変わらず 黄色に汚れた 紙切れを出して

めがねを上げて ゆっくりと それをにらんだ

「ずいぶん前のもんだからね。多少 ぼやけてはいるが。ほら。」

老人は 若者にその紙切れを手渡した

「ああ。」

若者は 安堵の表情を浮かべた

「おじいさん。色々ありがとうございました。」


「気にするな。それよりも。くれぐれも遅れるんじゃないぞ。」

「もちろんです!」

木下は満面の笑みを浮かべて 部屋を出て行った

あたりは まだ木下のオレンジ色の空気がただよっていた


「あの・・・。彼は。」


「へっへっへ。」

老人は 少し嬉しそうに笑った


「明日のに乗るんだ。あれは。」

思わず鼓動が高鳴った。



「さて。君はどうする?」


酔いが冷めた


まるで とてつもなく高いところから 飛び降りろと迫られているような気分だ


銀河鉄道が 何かもわからない


目の前で それを体験する若者いた


彼は嬉しそうだった


銀河鉄道って一体なんだ?


困惑の表情を浮かべる僕に 老人は口を開いた


「君はきっと思ってるだろう。銀河鉄道とは何か。はやく知りたい。教えてくれ。
 違うかい?」


「・・・・・」


僕は何故か言葉がでなかった


「一つだけ必要なことがある」


老人は 僕に 笑みを投げかけた


「それは別れだよ。」


別れ・・・


この老人が僕に 簡単に放った言葉には いろんな意味が含まれていた

人生の岐路という言い方をすれば


酷く 安っぽい作り物のような気がするが


人は 小さくても 大きくても  常に 幾つかの岐路と対峙している


結末は 悪化しようが 良くなろうが 確実に 重力に導かれるかのように

どこか 一方向へと向かっていく


大きな岐路での選択は その伸び先の道の長さを変え

小さな岐路では 方向を変えるだろう

癌で死んで行く人がいた

路上で 排泄物をその場で垂れ流している 家の無い男がいた

すべては 行き着いて地に着いた塊だ

それ以上 動きようもない



乗るのかい?乗らないのかい?

老人以外の誰かにきかれたような気がして僕はあわてて答えた

「乗ります。」



言葉が重く空間にじわりと広がった


PR
  
COMMENT
NAME
TITLE
MAIL (非公開)
URL
EMOJI
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
COMMENT
PASS (コメント編集に必須です)
SECRET
管理人のみ閲覧できます
 
ゆめかうつつか
乗るチョイス
グッジョブ!
路地とかにある古い喫茶店を見たら
この話を妄想しそうです
いいなあ
乗ってみたいなあ
  • ハイン さん |
  • 2009/03/27 (13:00) |
  • Edit |
  • 返信
乗るのか!
乗るのか!
乗るのか!!

と、思うままを垂れ流して去る。
  • たこ さん |
  • 2009/03/27 (19:22) |
  • Edit |
  • 返信
>re
>ハインさん
これで 乗りませんと
はっきり言って そして
また普段の生活に戻るのも
とても良いストーリーだと
思います(涙)
じめじめした店って意外と素敵


>たこさん
いくか・・・・?

いくのか・・・?

いったぁー!的なね。

ある意味イチロー。
TRACKBACK

TrackbackURL

過去の小説らは↓↓
忍者アナライズ
■パーペキリンクフリーです
Copyright ©  -- 爆発 --  All Rights Reserved

Design by CriCri / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]