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【短編】 階段の向こう側

 

 

 


その階段は じめじめとした
町の外れの 山の麓にあった。

コンクリート製だ。
いや、たぶんコンクリートで出来ているんだと思う。


というのも、その階段は、湿気により元気をもらった
深緑のコケがびっしりと張り付いていたし、秋になると
落葉樹の葉が落ちてどこからが段と段の境目なのか
判別がつかなくなるくらい埋もれてしまうからだ。



だけど、ほんの少しの隙を狙って覗かせるその素肌は
灰色で無機質だった。


僕は この町に生まれてから 今に至る18年間。
どうしてだかわからないけど、誰からもあの階段の
話を聞いた事はない。


たびたび 家族や友人に その階段の事を聞いてみたりはしたが
皆、一様に
「そんな階段あったっけ?」

これに似た返事が必ず帰ってくる。

僕はあの長い階段が一体どこにつながっているのか。
何のために作られているのか。

そういった疑問よりも逆に どうして皆があの
階段の事を知らないのかが疑問だった。

そんな話を 高校生活最後の夏休みとなる8月、親友の秋元と
話していた。秋元とは産まれた時から家が隣どうしの幼な馴染みだ。
子供の頃から何をやるにもずっと一緒だった。

秋元もやはり 皆と同じような答えを返してきた


「でもさ。その階段ってわざわざ作られてるわけだから、
何かちゃんとした目的があっての事だろうね。」


秋元は短い髪の毛をわさわさと2,3回かき混ぜながら言った。

「しかもコンクリ製だろ?その階段。何段くらいあんの?」

「さぁ・・・。途中までは登ってみたことはあるけどさ。
けっこう登ったけど、結局終わりが見えなくて引き返してきたんだよ。」

「いいじゃん。どうせ暇だしよ。明日登ってみようぜ。」

秋元のごく当たり前の提案に何故か僕は驚いた。

そうだ。思い切って最後まで登ってしまえばいいだけの事。
いくら長いっていったって、登れないくらい長いわけがない。

僕ら二人は真夏のほんの一日の暇つぶしにじめじめとしたその場所へと
向かう。


翌日、約束した山の麓のコンビニで合流して、適当に飲み物を買うと
僕らは他愛もない話をしながらゆっくりとその階段へと近づいていった。

どこにいても蝉の鳴き声が耳に流れ込んでくるこの季節だったが、
その山に近づくにつれてその鳴き声は音の最も上位に位置した。
 
小さな小川にかかる2メートル程の木橋を越えるとそこからはまるで
獣道のような細い道がしばらく川沿いに続き、少しするとさらに
細くなって道は山のほうへと入っていく。

一見本当に獣道のようだったけど、ちゃんと杭もうってあるし、
ところどころに足の踏み場となる丸太を地面に押し込めてあった。

太陽の日を浴びて延びきった蔦や木の葉が 
ちょうど僕らの行方をふさぎはしたが、
かるく手で押しのけると問題ない程度だった。

だけどそれって 人がそれほどまで通ってないってことだ。

階段まではそれほど遠くは無い。
さっき渡った木橋から200メートルといったところだ。
僕らは階段の前まで来ると一息ついた。

「ふうん。これがその階段か。どっかの寺とかにある階段みだいだな。」
秋元はペットボトルのお茶をバキバキ言わせながらそう言った。

階段はなんのかざりっけもなく、ただそこに存在した。
階段の始まりを知らせる看板や、頂上に何があるのかを知らせる看板も
やっぱりなかった。

僕が以前見た時と若干イメージが違っていた。

たぶん真夏だったせいだと思う。

思った以上にコンクリートの部分が露出していて、苔が青々と張り付いていた。

「ほら。終わり。見えないだろ?」

「これだけのもんつくるのはよっぽどの理由があったとしか思えん。」

秋元はそう言うと軽く自分の足を叩いた

「しゃ。いくか。」

僕らは最初の1歩を同時に踏み出した。
そして、ただひたすらに上を目指して登り始めた。
 

まだ遠くから車のクラクションの音が聞えてきていた。

最初のうちは 二人とも また他愛も無い話をずっと続けていた。

近くに出来た喫茶店の話。

先日公開された映画の話。

子供の頃一緒にやったゲームの話。

その他もろもろ。

だけど 20分も経つと有る程度疲れてくる。


話す話題には事欠かないが、体力には充分事欠く。

その上まだ先は見えない。

そして。下もまた見えないくらい高くまで登ってきていた。


「はぁ・・・はぁ・・・なんだこれ。」

「わかんね。」

僕は秋元の問いに即答で返した。

僕らはペースダウンはしたものの、着実に進んでいた。

これほどの長い階段。
もはや何者かを寄せ付けない為に作ったとしか思えない。

「なぁ、そう思わないか?」

「ああ。こりゃ拷問ってもんだ。頂上についた頃には俺ら皮だけになってるかもしらんぞ」

何度もペットボトルをくわえては秋元はそう答えた。

「よかった俺あの時あきらめて。一人だったら絶対帰ってるよコレ。」

「実際帰ったんだろ。」

「ああそうだった。」

「しっかし、俺もお前いなかったらこんな馬鹿しなかったよ。」

僕は軽く笑うと一気に10段程駆け上がってはまた立ち止まった。

「はぁ・・はぁ・・・。おい!頂上には金塊が眠ってるぞ!俺たちは
大金持ちだ!」

「なにぃ。そりゃ大変だ!いくしか!」

僕らは笑いながらまた登り始めた。


登り始めてどれくらい時間がたっただろう。
1時間か。2時間か・・・。
時計や、携帯を見るのも面倒だった。

あたりからは依然蝉の声が、ずっと昔から頭の中に
存在しつづけていたかのように鳴り響いていた。

「なぁ。ほんと、頂上に何があると思う?」

「さあなぁ。」

僕の問いかけに秋元はそっけなく答えた。

僕はそれにめげずに続けた。

「俺はたぶん巨大な天体望遠鏡があるんじゃないかと思うんだ。」

「なんだよそれ。」

「どっかの金持ちがさ、ひっそりと巨大な天体望遠鏡を作ってたんだよ。」

「なんでこんな場所に作る必要があるんだよ。」

「何故かききたいか?」

「聞いてやるから。」

「その天体望遠鏡はある1点だけを向いたまま、全く動けないように出来てるんだよ。」

「ほう。それで?」

「どの星座を見ているのかはわからないけど、その方向にある星座は
きっと特別なんだよ。」

「特別って?」

「そのお金持ちの奥さんが大好きだったとか。」

「お前相変わらずロマンチストねぇ。」

「だろ?そのお金もちは ヘリコプターかなんかで夜な夜なその
望遠鏡まできては、亡くなった奥さんとの思い出の星座を見ながら
ワインを飲むのさ。」

「奥さん亡くなったのかよ。」

「そりゃ亡くなってないと駄目だろ。」

「駄目ってなんだよ・・・。」

秋元は笑った。

「じゃ、俺の予想を聞かせてあげよう。」

「聞かせてみなさい。」

秋元は立ち止まってペットボトルのお茶を一口飲んで話続けた。

「このまま頂上へ行くとな。そこには恐ろしい処刑台があるんだよ。」

「えぇー。」

「いわゆるギロチンだ。街の人たちはみんなこの階段を恐れてる。」

「じゃ、街の人はみんな知ってるんだ。」

「ああ知ってる。だけどな、毎年、一人。必ずその処刑台に生贄を
ささげないといけないんだよ。」

僕は思わずごくりと唾をのみこんだ。

「その生贄ってはどうやって決めるかというとだな。その年に最初に
この階段に足を踏み入れた者。」

「うお。たぶん俺じゃん。」

「そう・・・。ふふふ。わるいな。じつはだまってたけどさ。
お前生贄なんだよ・・・。」

「こええ。やめろよ。」

「だいたい、街の誰一人もこの階段の事知らないの。おかしいと思わなかったのか?」

「い、いいや?。」

「みんな知ってて黙ってたのさ。だってお前生贄だもん。」

「げぇーー!!」

僕は走って階段を数段降りた。

「まてよ・・・。もう逃げられないぜ。」

「たすけてーー!つって。でも俺が最初にこの階段登ったの何年も前だぜ。
よく考えたら今年登ってねーし。」

「あら残念。」


「さっさと登ろうぜ・・・。」

「お前まだまだ元気ね。」

そういうと秋元はまた笑った。



 

しばらく僕らは無言で登り続けた。
文字道理黙々とだ。

あまりの疲れに二人とも笑みはきえていた。
冗談じゃない。

なんでこんなに長いんだこの階段は。

この階段作った奴が目の前にいたら蹴り落としていたところだ。


「なぁ・・・。」

登りながら秋元が口を開いた。

「お前さ。この18年間楽しかった?」

「なんだよ突然。しるかよ。」

「知るかってお前冷たいな・・・。」

「だって、突然そんな事きくか普通。まさかさっきの話の続きか?」

「いやいや違うって。。俺はお前の親友だからな。だから聞くんだ。」

僕は立ち止まった。

「はぁ・・・はぁ・・・。どした?」

「はぁ・・・はぁ・・・。いやぁ。なんとなくさ。疲れて
頭ボーっとしてきたからわけわからん事話すかもだ。」

「大丈夫かよ。もう降りるか?」

「何言ってんだよ。金塊はどうした。」

「はは。」

「よっし。ちょっと休憩。」

二人は階段に腰を下ろした。

気がつくと、いつのまにかさっきまで聞えていた蝉の鳴き声は止んでいた。

「あれ。ここ蝉いないのな。」

「ほんとだ。蝉もここまでは登ってこれんらしい。」

秋元のその言葉を聞いて僕はなんとなく安心した。


僕はペットボトルの最後の一口を一気に飲み干して上を見た。
すると。

階段が途切れていた・・・。

「あれ・・・・」

額に流れる汗をTシャツで拭うと、再度上を見た。
確実に階段が終わっている。

「あ!!おい!!見ろあれ!」

「うお!頂上だ!!」

僕らが目指した終着点。いわゆる頂上がそこにはあった。
まだ少し先だったけどあきらかに階段はそこで終わっていた。

「はっは!おい!秋元!もうちょいだ!いくっきゃないぞ!」

「まさかちょっと平坦な道になってまた階段つづいてたりしてな。」

「その時は死のう」

「あははは。」

僕ら二人は一気にテンションが上がり、早足で階段を登っていった。

「はぁ・・・はぁ・・・秋元、ごめん。こんなつまらん事につきあわせて。」

「へへ。何をいまさら・・・。」

二人の登る速度はさらに加速する。

「俺こそ・・・。ごめんな。」

「何が?」

秋元の声が急に沈んだように思えた。
 

「お前。俺に付き合うことなんてなかったのに・・・。
俺はお前をずっと閉じ込めてたよな・・・。」

「なにいってんの?お前。」

僕は秋元の言葉に思わず足を止めた。

秋元は気にせずそのまま僕を置いて階段を登っていく。

「お前は優しすぎるんだよ。いっつも・・・。」

「秋元・・・お前・・・。つまらない冗談言う元気はないぞ。」

10段程上まで秋元が進んだ時、秋元は振り返った。

日の光が逆行になり、よく見えなかったが、秋元は泣いていた。

「18年間。ずっと・・・ずっと・・・。こんなとこでお前を・・・。」

「秋元、どうしたんだよ・・・。一体なんの事だよ・・・。
突然。ワケわかんねーよ。」

秋元はまた上へと向き直ると、ゆっくりと階段を登りはじめた。

「絶対。最後は俺がやるときめてたんだ・・・。」

僕は秋元の背中をみつめながら階段を駆け上がった。

「おい!なんなんだよ!一体何言ってんだよ!」

頂上までのこり数段だった。

秋元はすでに頂上に登ってそのまま その向こうを眺めていた。

すぐに僕は秋元においつき、ついに階段を登りつめた。
頂上だ・・・。

「おい!あき・・・もと・・・。」

頂上のその景色を見た時。僕は言葉を失った。

「あれはただの事故だったんだ・・・。お前のせいじゃない。」

秋元は泣きながら笑っていた。



 

そこには天体望遠鏡も、処刑台もなかった。





ただ真っ白だった。




一面真っ白だった。





何の色もない。




全くの白。




白い空間が広がっていた。


 

「お前。どうしていつもみたいに笑いながら俺をおいてかなかったんだよ・・・。」

白い空間の向こうに。ポツンと。
一つのベットが置いてあった。

「そうしたらお前は今頃、こんな階段、登らずにすんだのにな・・・。」

ベットの上には・・・。僕が寝ていた。


いや、たぶん僕だった。


でも、あきらかに、今の僕ではなかった。


そして、あきらかに、歳をとっていた。


「こ、これは・・・。何だ・・・。」

「いや、それ以前にあんな姿にならずにすんだのに。」


僕はベットの上の自分であろう存在を再び見つめた。



「あ・・・。」

その時、僕は何かを思い出した。

その何かはまるで あぶりだしのように ゆっくりと僕の
頭のなかで色を濃くしていった。

事故・・・。そう・・・。事故が・・・。起きたんだ。


その時。
白い空間に一斉にいろんな人が現れた。


18年間育ててくれた両親。一緒に暮らした弟。

そして、彼女や、小学校の頃の先生。

近くの商店街のパン屋の主人。

文房具屋のおばさん。

床にはノートやゲームソフトや有名なアーティストのCDが転がっていた。
これらはみんな・・・。


そうだ。
これって・・・。
これって・・・・。


これら全ては、存在しないんだ・・・。

この世界だけの存在だった。

ただ一人。秋元を除いては。

 

僕は。18歳だ。

18歳。18歳。

18年間。生きてきたという事。

18年間ずっと、この存在し得ない世界で生活を続けていたんだ。
1歳からずっと。

 


手が聞こえた

割れんばかりの拍手だ。

なぜかそこにいた皆が笑顔で僕に拍手を送っていた。
 

僕はそんな中、ゆっくりとベットに近づいた。
僕は完全に全てを悟った。

僕はベットに横たわっていたプラス18歳の僕を見つめた。

ずっとベットで眠っていたようだ。
顔は青白く、髪は長かった。

18年間。ずっとこのベットで眠っていたんだきっと。
僕は。18年間。ずっと・・・ずっと・・・。

僕はもう一度振り向いた。

秋元が近くにいた。

「いったろ。処刑台があるって。」

「とんだ処刑だよ・・・。」

「わりぃ。こんな時間かかっちゃって。でもな。あの階段。
自分の意思でないと登れなかったんだ。」


「わかってるよ。」
僕は少し照れくさそうに下を向いた

「お前さ。これから大変だぞ。」

「ああ。」

「もうこっち戻ってくんなよ。」

「わかってる。次会うときは。」

「ああ。天国の方だな。おれもそっちでまっとくよ。」

「へへ。当分いかねーよ。」

「当分くんなよ。つか、間違って地獄行くな」

「お前が天国いけるなら俺も無事。」


秋元は苦笑いで返した。


僕らはしばらく見つめあった。


「じゃ、いくわ・・・。」

「おう・・・。」


それ以上。何も言わなかった。
拍手はまだ鳴り止まなかった。

もう一度当たりを見回した。
この18年間、全ての思い出がそこに山積みされていた。

「全てが夢・・・か。」
僕は誰にも聞えないような小さな声でぼそりとつぶやいた。

 

そして再びベットの上の自分へと向きなおった。
1歩前へと歩いた。
すると、拍手の音が急に遠のいた。
全てが白いモヤに覆われる。
遠くの方でかすかに秋元の声がきこえた。
「お前に借りてたゲーム、もらっとくぜ。」

気が付くと
白い天井が見えてきた。
周りで女性が叫ぶ声が聞えた。
目を覚ましたとかなんとか。
きっと看護婦だろう・・・。
おそらく。たぶん。
僕は18年ぶりに帰ってきたんだ・・・。

やがて僕の本当の両親がやってきて僕を迎えてくれた。
もっとも、もう僕なんていう年齢でもなかったが。

両親は泣いて喜んでくれた。
18年前の友達や親戚の人たちも来ていた。

みんな笑顔だった。

そんな中、僕は秋元がいるような気がした・・・。
だけど彼はいない。
18年前の自動車事故で死んだんだ。
運転は僕だった。
そして僕だけが生き残った。

ようするにそういう事だ。


これから、僕には色々と大変な事が待っているだろう。
だけど、秋元と一緒に過ごした18年間。いや、36年間を大事に
精一杯生きていこうと思う。いや、生きていけると思う。
だって、あの階段を登りつめたんだから。

 

 

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