忍者ブログ

   
カテゴリー「小説」の記事一覧
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

次の日の休み

僕は 一人家に閉じこもった

外は 静かに雨が降っている


ニュースでは

行方不明の 男の事を わずかな時間で報じていた

この国では

どこに行ったか わからなくなっただけで

国中に知らされる

そんなふうにして

1年で 数千の人間が

報じられては 忘れられて居なくなっていた

昨日 あの店にやってきた青年は

ニュースで報じられたのだろうか

銀河鉄道には乗れたのだろうか・・・


仰向けになりながら
僕は改めて老人に手渡された古びたチケットを眺めた

”4月5日"

手渡されたチケットには

青く滲んだ文字でそう印刷されていた


まるで ずっと古い文献を とても慎重に読むようだった

今となっては

この切符が 本当に必要なのかどうなのかさえ

よく分からなかった


最後に老人が言った


「君に大事な人はいるかい?」



大事な人?


「別れと出会いは同じだがな。」


なんだか 格言のような気がして 気がひけた

何から別れていいのか・・・わからない。


無理に考えれば 余計 見つからなかった。



また次の日の夜

僕は よく晴れた 夜空を見上げた

今まで 見ていた空よりも  多く星が見えた気がした

これはただの 冗談かもしれない

それとも なにか 複雑な事件の前触れかもしれない

いずれにせよ

僕は この 何か 茫漠とした決められた時間から

横に転がり出せそうで

その日をどこか心待ちにしていた

4月1日

僕は とりあえず 実家に電話をした

母は 相変わらず 一言話すと その3倍は 心配事を 詰め込んで投げてきた

色々話したい事はあったけど

結局 いつも話す 内容で 終わった

母は 家庭菜園の話や、新しく買った軽自動車の話を嬉しそうに話してくれた

父や母は 僕に何を期待して育ててくれたのだろう

今の僕の事を どう思ってるのだろう


4月4日 土曜日

会社は 休みだったが

何故か 会社に向かった

何人かの 新人が 休み返上で仕事をしていた

僕は 一通り挨拶を交わすと

1時間ほどで 会社を後にした

そして その後

近くの映画館に映画を見に行き、帰りに弁当を買って家路に着いた

気が付くと ビニールの袋に詰め込まれた気分だ

どれだけ あがいても

同じ場所だ


気がつくと僕は まるで ”4月5日”という日が

世界の終わる日であるかのように 振舞っていた

そういえば 昔 どこかの国で起きた 事件の事を思い出した

それは ある狂信的な宗教の事件だった

終末思想を持つ その宗教は ある 決められた日に 地球が終わるとし

その日を 旅立ちの日とした

そして、その日がやってきた

信者達は 一斉に旅の薬と称した毒物を 飲み込み 自殺した

自殺した信者達は 皆、一様に余所行きの服装に着替え 旅行カバンを持ってた


そして その宗教は 終わった

彼らは どこかへ旅立てた

それは 嘘ではなかった

ただ 地球が終わらなかっただけだ

明日は

どうなるのだろう














4月5日

その日だった。

あの日、老人に言われた場所、町外れの小高い丘まで 

家から ゆっくりと時間をかけて歩いてやってきた

途中、意味も無く古本屋に立ち寄ったり、河原を歩いたりもした


季節はもう すっかり冬から離れ 春の暖かさだった

だけども、夜になると まだまだ急に気温が下がる日もあった。

この日もそう ともすれば 白い息がつくれそうだ

この丘は 無理に作られたコンクリートの階段が ゆるやかな螺旋状に続いている

頂上まで上るには 何度か 休みながらでないと きつい

ちょっと前までは こんなじゃなかったのにな・・・




丘の上には 一つだけベンチが置かれている

その横には 汚れた水銀灯が一つと大きな桜の木。

ここは この小さな町を一望できる 唯一の場所らしい

一望できる風景は 町を通り越えて その向こうの海まで見えた

普段であれば たまに カップルがここに座って 臭い台詞のやり取りの一つでも しているのだろう

でも 今日は誰もいなかった



僕は少しホッとした気持ちで ベンチに腰を下ろした


そして 一息つくと 空を見上げた


今日は 月が消えている


その所為でいつもは 見えない星さえ見える気がした

この点全てに名前を付けるなんて、人間って本当、支配欲が強いよな。




僕はがっくりと 首を持ち上げて空を見ていた


左で明るく輝く水銀灯に1匹だけ 蛾が 舞っていた

携帯をカチリと開いて今の時間を確かめた


23:49

5日の夜中だ

もうすぐ6日になろうとしている


改めて チケットを財布から取り出した


チケットには4月5日とだけ 刻印されていて 時間等はまったくなかった

だけど あの老人は 24時前に間に合うように来れば良っていってたな


あと10分ほどで全てがわかる

そう思うと 僕はとても落ち着かなくなった

大きな 機関車が 空からやってくるんだろうか

それとも 何もなく このまま終わってしまうんだろうか


全てはあと少しで どちらかに偏る


あとはここに座って待つだけだ


あと 少し


あと 少しで僕は・・・





”ポン”

誰かに軽く肩を叩かれた

僕は 重いまぶたを起こして 叩かれた方向を見た

どうやら 僕はしらない間に 眠っていたようだ

僕の 隣には一人の老婆が座っていた

老婆は ずっと 真正面を見据えては 鼻をすすっていた

僕は 頭の中でいろいろ考えては 何も話せずにいた。


蛾が ベンチの横の水銀灯にぶつかっては カチンと音を立てていた


どれくらい経ったか

きっと 時間は もうとっくに24時を過ぎていただろう

結局、銀河鉄道は来ず、来たのはこの老婆一人だ。

この老婆が銀河鉄道だったら。

笑えるな。


その時、その老婆は 枯れ葉がこすれるような声で話しはじめた

「最初は 小さな塊だったよ。誰も気にはしない。私自身そうだったさ。」

ぼくは 小さな声が漏れそうになったが 結局 何も言えずそのまま 話を聞いた

「誰も気にしないけれど、誰でも気付くよ。それがあるってことはね。」

僕は初めて 声を出した

「それって・・・。何?」

老婆は気にせずに話しを進めた。

「わからないかい?簡単な事だ。物事に"突然"なんて存在しないんだよ。」

僕は 相変わらず よく分からないことを言う 老婆に少しムッとした。

「わかっていたよ。私だってね。あんたもそうだっただろう?」

そういうと 老婆は げほげほと湿った咳を繰り返しては

ゆっくりと 腰を持ち上げ ぶつくさ 言いながら

歩いていった

そして 暗闇の中にまぎれて消えた。


僕は あの老婆の存在の意味も、そして話した内容の意味もわからなかったが

その瞬間

そして、その直後に 言いようの無い 悪寒と、それと同時にそれを押しつぶす胸の熱さを感じた





僕は改めて思った

きっと ずっと前から こうなることを 予感し、いや、期待しながら

この銀河鉄道という 特別な出来事に接し続けてきたからだろう。



僕は ベンチに座りながら 下を向いたままだった。


あの老人が言った 別れとは 一体何なのだろう

それは 今への別れなのか

過去への別れなのか

どちらにしても 生きていくには 必要なものなんじゃないか?




だけど、白く小さなその手は 僕の覚悟も何も 全て するりと つきぬけて

僕の右の上に覆いかぶさった。


全ての音が 消えた気がした





僕の手は震え、自由を失った

ただ、目から まるで待ちわびたかのように 涙がこぼれおちた

それはぼくの右手に覆いかぶさったその左手に ぽたりと落ちた。

どこか遠くで 大きく 恐ろしい鐘の音が 響いている

その音の恐ろしさに 僕は震える

僕は 一つ大きく深呼吸をした


”カン”

という 蛾が 灯りにぶつかる音がして、少し我にかえった



想いが溢れて声が出なかった

そして僕は 再び準備していた 涙をただ 流すだけだった

その左手は しっかりと 僕の右手を 握り締め、その表情さえも伝わってくる


僕は 初めて 彼女の顔を見つめた

それは あの時、助手席に座って、笑顔で話しかけてくれた

あの時の、10年前の瞬間のままの笑顔

謝罪

抱きしめたい気持ち

でも体は 何も 出来なかった

そんな時 彼女が 不意に 口を開いた




「車、もったいなかったね。」


僕は笑顔にならない笑顔を作って言葉をこぼした

「もったいない物は 他にもあったよ。」

彼女は その言葉を聴くと 目を強く閉じては また笑顔で答えた。

夜の冷たい空気を押しのけて暖かい風が ゆっくりと流れた

それは この時間を 護ってくれているようだった




このベンチは

この丘の上のベンチは

銀河鉄道という名の 鏡だ

いつも乗る列車の暗い窓だ

そう 僕は 思った

ただ、そこには いつもとは確実に違う 左手が 確かにあった

僕の 思いを伝える その先が確かにあった

伝えたい事もいっぱいあった

それは 毎日 列車に乗ってきた数だけあった

だけど 僕はただその左手に強く握りかえす

彼女は それに答えて握りかえした

あの彼女のままだ

寡黙で

そして 優しくて

小さくて やわらかくて

大好きな







もう 水銀灯には 蛾はいない









翌朝のそのベンチには

冷たくなった僕の体が 幸せそうな顔で

横たわっていた



桜が舞った





その選択に 正しいも正しく無いも ないのだろうけど


僕は 彼女と一緒に旅立った。


それが 銀河鉄道だった


ネグロの呪いが解ける場所だった。


僕が”いなくなった側”の世界でも

魚は不機嫌そうな顔をして銀河鉄道の切符を発行し続け

また つらい呪いを掛けられた誰かを旅に出した


決して美談ではないが、そういう最後も悪くはないと思う

死が終わりだと人は言うけれど

死は別れと出会いなんだと思う





もし あなたがチケットをもらえたら

丘の上で 誰と出会えると思いますか?

話したい事を話せますか?
PR
  
過去の小説らは↓↓
忍者アナライズ
■パーペキリンクフリーです
Copyright ©  -- 爆発 --  All Rights Reserved

Design by CriCri / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]